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2009年2月17日 (火)

おたふく

湊かなえの「告白」を読んだ。最近小説推理新人賞をとったやつだ。
半日で読めてしまった。
つまんないんだなあ。
いやいや、ストーリーは面白いけど、なんか薄っぺらいんですね。

お口直しに、と、また山本周五郎を読んでしまった。「松風の門」。
やっぱ、いい。この作品はすごいです。

何が違うんだろう。
時代物でいくと、藤沢周平、池波正太郎にしろ、だが、
やっぱ入りこむことできないでいる。ストーリー展開
だけを追ってしまう自分に気づくんですね。
行間が無い。

なんだか欲求不満気味なんで、東野圭吾を読んでみた。初めて。
「容疑者Xの献身」。
これは直木賞をとったやつですけど、なんか宮部みゆき
といっしょって感じ。。。
だいぶ前に読んだな「魔術はささやく」。
そう思いませんか?

余計なことばっか書いているんですね。だが描写がまるっきり垢抜けない、
だから展開ばっか追ってしまう。
作品が悪いわけではないだろう。ラストのどんでん返しも
意表をついていますし。
私は、湯川が犯人宅に泊まった時、押し入れの中から炬燵を発見したのが
解明の糸口とおもっていたのだが、文中にそれは無い。
ではなぜ旧友を犯人と推察したのか、隣の親子を主犯としたのか
ということが釈然としない。

ま、愚痴を言ってもはじまりませんので。

周五郎の文庫「松風の門」は短編集。中には三部作「おたふく」の
二部目の作品「湯治」が入っている。
私はこの「おたふく」、何度読んでも泣けてしまう。
どうしてこういうことが、こういうふうに書けるのか、まさに
周五郎は天才としか思えない。

この作品と出会ったのはサラリーマンになった後のこと。
いつも文庫を持っているのに気づいた、仕事でつきあいのある
ある人からある日、山本周五郎でおすすめのを教えてくださいと言われた。

「以前飲んだ時、泣けるのがあるって、おっしゃってたでしょう。
 それ、教えてください。恋愛ものですよね。確か。
 そう聞いてますけど」

話下手のその彼は、何度かつかえながらそう私に聞いてきた。
歳は当時私が30すぎ、彼は3~4つ下だったと思う。
その時もたまたま何人かで飲んでる時だったのだが、
そのあと二人だけでもう一軒行きましょう、と誘われた。
彼は飲まない。私は強かに飲んだが、何も食べていなかった。
締めにラーメンを食べましょうとさらに引っ張られた。
私は飲んで食べると寝てしまうから、飲む時は極力食べないように
している。そんな私を気遣ってくれたのだ。

ラーメン屋で向かい合わせに座ると、何か言いそびれていたことが
あるのだろうか、彼はぼつぼつと話し始めた。

実は、、、
会社を辞めなくてはならなくなったのです。
茨城の田舎で父母が農業をやっていますが、母が倒れたので
帰らなくてはならないのです。
私は、見てくれが悪い、ええ、否定しないでください、自分でもそう思ってます、
お世辞にもいいとは、全くもって思えません。顔はおたふくのように
ぶっちゃりして、チビで、しかもデブですし。
もちろん今まで、彼女というもの、できたこと、ありません。
今後も難しいでしょうか、だから、せめて本の中ででも、
そういう、純愛、というんでしょうか、恋の話を読んで
おきたいんです。
お願いです。おすすめのを、教えてください。

概ねそんなふうな内容だった。

容姿については彼の言うことはもっともだったかもしれない。
あだ名はムーちゃん、だった。先輩らからは呼び捨てでムー、とも
呼ばれていた。
背も低く、ムーミンのように下腹部が太っていたから。
動きも緩慢だった、純真な上にさらに口下手でもあったからか。
しかし仕事は、朴訥であったがために、多くのお客から信頼を得ていた。
口先ばかり達者な者は逆に疎がられたりするものだ。

周五郎作品はまだ読んだことがないらしい。
恋愛ものを読みたいんなら別な作家のをとも思ったが、
これからサラリーマンを辞めて、時間はたっぷりできるだろう。
じゃあ、是非周五郎を読んでみてください、でも、
私が泣けた作品が

「おたふく」

だということは彼には教えなかった。
周五郎は、面白いとはいえ、ひとつとってそれだけを読んでもよくは理解できない、
つまり、全部を読んでそしてはじめて、その秀作に気づくのだ。
多くを読み漁ってみてそれでその作品に出会って欲しい、
確かそう伝えた。

彼は何カ月か後、会社を辞した。そしてある期末の忙しい時のこと。
受注を多く請け、仕事がつまったが、ネットのSE作業、下請け業者が
どうしても手配できない問題にあたった。人がいないのだ。
どうにもならなかった。
どうしよう。。。

ムーちゃんのことを思い出した。
彼は請けてくれるだろうか、茨城から出てきてくれるだろうか。その仕事、
彼なら成し遂げてくれるはず。

おそるおそる彼に電話をしてみた。
私のお願いを、彼は快く請けてくれた。
内容を話し終えた後しかし、ちょっと待ってください、
と、彼は条件をつけてきた。

「たかぴーさん。
 あの時、教えてくれなかった、周五郎の、泣ける話。
 あの作品、教えてくれませんか。
 何冊か読んでますが、まだ会えないのです。
 是非教えてください」

彼は実際に何冊も周五郎を読み始めていたのだ。

「あ、、、
 そうかそうか。
 もうだいぶ読み始めているんだね。
 じゃあ、
 こうしよう。
 この仕事を終えたあと、あげるよ。持ってるから、その本。
 おれはもう、何度も読んでるし、
 あげるから、仕事終えたあと、お渡しします」

ところが、無事仕事を終えてもらった後、他の用が詰まって、
彼に本を渡すことができなかった。
しまった!
私が急ぎ現場に戻った時、彼はもう茨城へ帰ったあとだった。

ムーちゃん、今頃どうしてるでしょうかね。
その作品
「おたふく」
は読めましたか?ええ文庫
「大炊介始末」
に入っているんですよね。
カバーもなく、表紙は擦り切れて、手垢もついていますが、
まだうちの本棚にあると思います。
またお会いできるといいですね。本はとっておきますから。

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