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2008年9月 8日 (月)

たまには崩れましょう

近所の居酒屋のカウンターで飲んでいた。知人と待ち合わせだったが
だいぶ早く着いてしまった。

私の左隣の人もちびちびと一人で飲んでいる。
寂しそうにも見えたが、インテリっぽい、どこか人を寄せ付け難いオーラが
出てたし、なんだかちょっとキザっぽいようにも見えた。
服がポロシャツの普段着だから若く見えるのか、でも
年はわたしより一回りは上だろう。
酔いが回ってきたらちょっとちょっかいでも出してみようと思った。

知人が遅れてやってきた。その知人とも久しぶりだ。
最近のお互いのことで話が盛り上がった。

しばらくして、ひと段落。
お隣、タバコの煙を燻らせている。
そろそろ声かけてみっか。

「ここら辺、なんですか?」

と聞いた。

「ええ」

案の定、そっけない返事。しかし想定内。

「ずっと、ですか?」

と聞くと、

「いや、若い時は都心の方だったんですがね」

またそっけない。
すると知人は知っていたようで、

「確か新宿の方にいらしたんじゃ、なかったでしたっけ」

と言うと小さく頷いた。

こりゃ変化球でも投げないと会話にならんなと思って、意外な質問を
投げた。

「じゃあ、新宿高校、出たでしょう」

大きめにクチにしたウーロンハイを喉に詰まり気味にさせたお隣、
ちょとムセて

「いや、戸山高校、です」。

訂正してきた。
当時の戸山といえば一流中の一流だ。
その時初めてお隣はこちらの方を見てくれた。
よくよく顔をのぞくとインテリっぽさがにじみ出てる。
キミタチとは違うんだよ、ボクは、とおでこに書いてある。

こりゃだめだ、もっと崩してやろう。

「ほほお~戸山っていやあ、超一流じゃあないですか。
 じゃあ大学は・・・」

東大ですよね、と聞こうとすると一瞬を突いて、
案の定、東大ではないが、一流大学の名が口から出てきた。

ほころびが見えはじめたかな。
くずれるとこういう人は面白くなってくるんだが。

「じゃあ、若い時は相当オンナ、泣かせましたね」

とむけると

「いやいや、そんな、、、
 まあちょっと、今よりは、良かったかも
 しれませんがね」

初めて顔をほころばせた。
よかった。目じりが下がった。
もうちょいだ。

「北京オリンピックのアンカーの朝原選手に似てるって言われるでしょう!」

大きめの声で聞いた時だった。
その瞬間、飲み屋の客全員がこちらを見た。連れとママさん大ウケ。

「いやいや、そう言われたことはありませんよ」

照れて逃げ腰に言うので、

「でも、自分では、似てると、思ってる。
 鏡見て、俺の方が、かっこいいのに、って思ってる。
 図星でしょう」

そこまで言うと、もう知り合いになったも同然だ。
なんだかわからんが酔いも回ってきて、自分のことを話しはじめた。

月曜から金曜まで、この近くに来ている、
実家なのだ。で、そこで母(90前)の面倒をみているのだ、という。

「だから住まいは湘南の方なんだけど、土日しかあっちには
 帰れないんですよ。
 あとは、休みなく、単身泊まり込み。
 ずっとこっち、なんです」

介護かあ。
大変なんだろうなあ。

「これは、ほんと、とんでもなく大変なことですよ。
 貯えがあるからいいようなもの。経済的にも、ね」。

せっかく盛り上がってきたのだが、なんだまた急降下じゃねえか。

空気を読む私の連れすかさず、

たかぴーさん、歌でも行きましょう、ちょっと気晴らしに行きましょうよ

と声をかけた。

私はお隣を誘った。

「行きましょう。近くです。近くのスナック。
 歌えるんでしょう。歌いましょうよ。行きましょうよ」

服までひっぱったが、

「ええ、いや、いいです、ええ、まあ、いければ、いきます」

なんともつかないあやふやな返事。

「じゃ、先、行ってますから、
 待ってますから、ね、朝原選手!」

出際にそう残して我々はタクシーに乗って1メーターほどの
連れの行きつけのスナックに行った。

20~30分も経たないころだろうか、私と連れで1曲ずつ歌い終えたころ
扉がスーッと開いた。
顔をのぞかせたのは先のお隣だった。

「やっぱ、来ちゃいました^^;」

いやはや、そっからまた、盛り上がりました。
いいお顔になってましたよ。朝原さん。
(本名知らない)
  
 
  
今日、仕事でその時の連れと会ったら、
あの人は、そう崩れる人じゃあないんだ、よくまああんだけ崩れたなあ。
と言っていた。

大変なんだろうなあ、介護。
でもたまにはね、ああして、息抜きしないとね、だめですよ。
自分が壊れちゃったら、本末転倒じゃあないですか、ね。

しかし意外だったのは、次にその知人に私が言われたこと。

「たかぴーさんとね、前、飲んだの、去年の12月
 だったでしょう。
 あんときはね、たかぴーさん、目ん玉吊り上っちゃってて
 大変でしたよ。
 昨日の人どころじゃあ、なかったよ。
 あのときのたかぴーさんは、もっときつかったよ」

そっかあ~私もあるんだ。そういう時。
考えたら年末は仕事が思うように捗んなくて
大変だった。
オモテに出るもんなんですね、そういうのは。
はい。今回、そう思いました。

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